2022年09月29日
2023年10月から、「インボイス制度」がスタートします。免税事業者の方の中には、インボイス発行事業者になるべきか、それとも今のままでいた方がいいかがわからず、悩んでいる方もおられるかもしれません。
インボイス制度が導入されると、免税事業者はどのような影響を受けるのでしょうか?また、今後インボイス制度に対応していくためには、いったいどうすればいいのでしょうか?インボイス制度に対応する際の留意点などについても、解説します。
インボイス制度とは?
「インボイス制度」とは、正式名称を「適格請求書等保存方式」といって、適用税率や税額の記載を義務付けた請求書等を交付・保存する制度のことです。
2023年10月にこの制度が適用されると、適用税率や税額が記載された請求書によって、消費税を計算・納入することになります。
適格請求書発行事業者以外から課税仕入れを行った場合は、原則として仕入税額控除の適用を受けることができません。(ただし制度開始後6年間は経過措置があります。)
そのため、支払う側の事業者は、インボイス制度が始まる前よりも、消費税の計算上不利になることになります。
【具体例付き】インボイス制度の導入によって免税事業者にはどんな影響がある?
インボイス制度の導入によって最も大きな影響を受けるのは、「免税事業者」です。免税事業者とは、消費税の申告・納税義務がない、基準期間の課税売上高1,000万円未満の事業者等のことです。主に個人事業主や、小規模事業者などがこれにあたります。
例えば、課税事業者が免税事業者に対して、消しゴム代110円を支払ったとしましょう。現行制度では、支払う側は110円のうち本体代金100円だけを経費として処理します。残りの10円は消費税なので、仮払い消費税として計上することになります。
しかし、インボイス制度が始まると、この計算の仕方が変わってきます。制度がスタートしてから3~6年間は経過措置があるため、3年間は110円の支払いに対して102円が経費となり、仮払い消費税に8円しか計上できなくなります。支払った側にとっては、実質上経費が増えることになります。
実施4~6年目になると、さらに経費105円、仮払い消費税5円となり、7年目からは経費110円となって、現行の制度よりも経費が約10%増加することになります。
これを嫌がる課税事業者は、インボイスを発行しない免税事業者との取引を止めたり、経費が増えた分の値引きを要求してくる可能性があるので、免税事業者のままでいるか否かについては慎重に検討しましょう。
インボイス制度への2つの対応策
では、このように不利な要素しかないインボイス制度に対して、個人事業主や小規模事業者はいったいどのようにして対応したらいいのでしょうか?
考えられる選択肢は、2つあります。ひとつは免税事業者のままでいること、そしてもうひとつは、インボイス発行事業者になることです。
①免税事業者のままでいる
1つ目は、「免税事業者」のままでいるという選択です。そうすれば、今まで通り消費税の納税は免除されます。
しかし、免税事業者のままでいることには、リスクも伴います。それは、今後仕事が減るかもしれないというリスクです。
取引先は、自分が免税事業者のままでいると、支払った金額に対して仕入税額控除を適用させることができません。そのため、先に説明した消しゴムの事例のように、経費が増えてしまうことになります。
最初の内は仕方ないと思って仕事をもらえても、「どうせ仕事を頼むなら、インボイス発行事業者に頼んだ方がいい」と思うようになり、契約を切られてしまう可能性もあるでしょう。
ただし、取引先が以下のような事業者の場合に限っては、インボイスによって経費が増えるという影響はありません。
- 取引先自体が「消費者」や「免税事業者」である場合
この場合は、そもそも取引先がインボイスをやっていないので、自分がインボイス発行事業者にならなくてもまったく影響ありません。 - 取引先が「簡易課税制度」を利用している場合
取引先が簡易課税制度を利用していれば、インボイスで仕入税額控除をしないので、自分が免税事業者のままでも関係ありません。 - 取引先の事業者が非課税サービスなどを提供している場合
医療介護事業者などは非課税サービスなので、自分が免税事業者のままでも問題ありません。
②インボイス発行事業者になる
2つ目は、「インボイス発行事業者」になるという選択肢です。これは、消費税を計算して申告納付をする「課税事業者」になるということを意味します。
課税事業者になることによって、消費税の申告・納税が必要になり、事務負担が増加します。そして、取引先に正確なインボイスを発行し、そのときに受け取った控えは、仕入税額控除のために保存する必要があります。
これはとても面倒な作業になるため、事務負担を軽減するために、後でご紹介する「簡易課税制度」が設けられています。簡易課税制度を利用することで、請求書などの保存は不要になります。
インボイス発行事業者になるための手続きとは?
インボイス発行事業者になるためには、以下の2つの書類の提出が必要になります。
- 消費税課税事業者選択届出書(不要な場合あり)
- 登録申請書
登録申請書を提出する期間は、課税事業者となる課税期間の初日の前日から起算して1ヶ月前の日が原則です。
「いったんインボイス発行事業者になると、もう免税事業者には戻れないのでは?」と心配する人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。
2023年10月を含む課税期間に免税事業者がインボイス発行事業者になった場合で、「やっぱり免税事業者の方が良かった」と思ったときは、翌課税期間から免税事業者に戻ることが可能です。
※例えば個人事業者の場合は2023年10月からインボイス発行事業者になっても2024年1月に免税事業者に戻ることができます ※所定の手続きが必要です
【便利だが、ご利用は計画的に!】簡易課税制度
実際にインボイスをやるということになった場合、原則としてかなり面倒な作業が発生しますが、「簡易課税制度」を適用すれば作業もだいぶ楽になるでしょう。
簡易課税制度では、仕入税額控除の金額を、「課税売上に係る消費税額×みなし仕入れ率」で簡単に計算することができます。
これによって経費などの支払いに係る消費税額の計算が不要になり、受領したインボイスの保存も必要なくなり、事務作業が軽減されます。
ただし、この制度には注意点もあり、売上額が一定の場合は適用になりません。2年間継続して利用する必要があり、実際の納税額は通常の総税額計算と異なる可能性もあります。
簡易課税制度を使わない方が、納税額が安いケースもあるので、ご利用は計画的に行いましょう。
その他の留意点
インボイス制度の導入にあたっては、注意すべき点があります。まず、原則として「領収書(兼インボイス)」が必要になります。現行制度では、3万円未満の課税仕入れや請求書の交付については、帳簿の保存のみで仕入税額控除が適用になる場合もありますが、インボイス制度の導入によってこれは廃止されます。
つまり、絶対にインボイスを兼ねた領収書を、取っておかなければならないということです。タクシーや新幹線の領収書についても、「紛失しました」は今後通用しなくなります。
また、これまでは軽減税率の対象品目となる経費がある場合、請求書などに「軽減税率対象品目である旨」や「税率ごとに区分して合計した税込対価の額」の記載がなければ、追記することも可能でしたが、インボイス制度導入後はこれも廃止されました。
まとめ
インボイス制度の導入によって免税事業者が受ける影響や、インボイス制度に対応する方法、その際の留意点についてお話ししました。
3~6年という猶予期間はあるものの、インボイス制度の導入によって免税事業者に影響が及ぶことは、間違いありません。
インボイス発行事業者になるか、それとも免税事業者のままでいるかは、とても難しい問題ですが、今後の自身の方向性なども考えながら慎重に判断しましょう。税金に関して専門家に相談したい方は、鯵坂税理士事務所までお気軽にご連絡ください。