インボイス制度で見落とされがちな気を付けるべき2つのポイント

2022年07月20日

2023年10月から始まるインボイス制度は、課税事業者のみならず免税事業者にとっても対応が必要であることから多くの関心が寄せられています。

インボイス制度の概要については過去のコラムでも詳しくご紹介しています。ですが、施行までまだ1年あるため、2022年現在の事業をされている方の多くは「適切なインボイスを発行するためにはどうすべきか」「免税事業者との取引をどうするか」「免税事業者である自分はどう立ち回るか」というところで悩まれているのではないでしょうか。

もちろんその疑問を解消することも大切なのですが、それ以外にも今までの取引とは変わることがいくつかあります。今回はインボイス制度の中でも、見落とされがちな2つの事柄について注意点をご紹介します。
なお、このページではインボイスの記載要件を満たした領収書のことを便宜上、領収書と表記しています。適格請求書の記載要件については過去のコラムでご説明していますのでご確認ください。

インボイス制度開始からは原則すべての領収書の保存が必要となる

すべての領収書の保存が必要となることが、インボイス制度で注意したいことの1つです。

今までは税込み3万円未満の仕入れについては領収書を発行してもらわなくても、帳簿の記載だけで仕入税額控除が認められていました。また領収書がない場合や3万円以上の仕入れでも領収書が保管できなかったやむを得ない理由がある(天災や事故、不慮の事故による紛失等)場合も仕入税額控除が可能という実態がありました。

出金伝票や支払証明書で支出したという事実と経費であることを証明できればそれでよかったのです。ちなみにやむを得ない理由には以下の事柄が当てはまります。

  • 自動販売機を利用した場合
  • 入場券、乗車券等のように、証明書類が回収される場合
  • 課税仕入れの相手方に請求書等の交付を請求したが、交付を受けられなかった場合
  • その課税仕入れを行った課税期間の末日までにその支払対価が確定していない場合
     (支払対価が確定したときには、請求書等の交付を受け、保存が必要)
  • その他これらに準ずる理由がある場合

やむを得ない理由については税務署の判断になるため、領収書の紛失は理由として認められないことがほとんどです。
ですがクレジットカードの利用明細でも支払証明書と見なされることも多くあり、基準が曖昧になっていたのは事実です。

インボイス制度が開始されると3万円未満の仕入れでも領収書の保存が必須になる

インボイス制度開始からは、今までは不要だった3万円未満の仕入れでも3万円以上の仕入れでも領収書の保管が必須となります。

もちろん先にご説明したように、領収書の発行を求めることができない仕入れについては、今まで通り帳簿に記載し仕入れであることを説明することが可能であれば仕入税額控除が認められます。ただし、領収書の発行が難しい仕入れについては以下のものに限られます。


参考:国税庁・消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する取扱通達
  • 公共交通機関である鉄道等による旅客の運送(3万円未満)
  • 自動販売機、自動サービス機により行われる課税資産の譲渡(3万円未満)
  • 郵便切手を対価とする郵便サービス(郵便ポストに差し出されたものに限る)
  • 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます。)を満たす入場券等が、使用の際に回収される取引
  • 古物営業、質屋又は宅地建物取引業を営む事業者が適格請求書発行事業者でない者から、古物、質物又は建物を当該事業者の棚卸資産として取得する取引
  • 適格請求書発行事業者でない者から再生資源又は再生部品を棚卸資産として購入する取引
  • 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当等に係る課税仕入れ

これ以外の取引については、領収書を保存しておくことが必要です。特に手書きの領収書の場合、記載要件を満たしていないとインボイスとは認められません。
ただし以下の事業者については簡易インボイス(書類の交付を受ける事業者の氏名もしくは名称の記載が不要)の交付が認められています。

  • 小売業
  • 飲食店業
  • タクシー業
  • 写真業
  • 旅行業
  • 駐車場業(不特定多数に対してサービスを行っている)
  • 上記に準ずる不特定多数の者を対象とする営業を行っている事業者

仕入れをしている事業者は、適格請求書・適格簡易請求書どちらの形式であっても請求書保存の義務があるということは忘れないようにしましょう。

最新の会計ソフトが必需品となる可能性がある

インボイス制度の開始で注意したいことの2つめが、会計にかかわる事務業務の増加に対応する必要が出てくるということです。

インボイス制度は2023年10月から開始されますが、免税業者からの仕入れが仕入税額控除の対象とならないことから2029年9月までは経過措置が設けられています。
これは、免税業者だけではなく課税業者双方が不利益を被らないようにするための措置です。経過措置は以下の通りとなっています。


2023年10月から2026年9月まで→仕入税額相当額の80%
2026年10月から2029年9月まで→仕入税額相当額の50%

この経過措置の適用を受けるためには、帳簿に「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を記載する必要があります。また、税抜き経理方式の事業者であれば免税事業者からの仕入につき以下のような経理処理を行うことになります。

例1.2023年10月から2026年9月の間に免税事業者から事業用建物(税抜価格1,000万円、消費税額100万円)を購入
建物1,020万円/普通預金1,100万円
 仮払消費税80万円/

例2.2026年10月から2029年9月の間に免税事業者から事業用建物(税抜価格1,000万円、消費税額100万円)を購入
建物1,050万円/普通預金1,100万円
 仮払消費税50万円/

例3.2029年10月以後に免税事業者から事業用建物(税抜価格1,000万円、消費税額100万円)を購入
建物1,100万円/普通預金1,100万円

このように仮払消費税を取引の対価から区分して経理処理を行う必要があることに加え、帳簿に「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を記載する必要があります。

帳簿への記載事項が増えるため、会計担当者の負担も増えます。特に現行バージョンの会計ソフトでは、インボイスに対応していないため、別途新しい税区分を設定する、入力項目を追加するといった作業が必要となるのです。

バージョンアップし、インボイスに対応した会計ソフトを新たに買い替える、もしくは常に最新版にバージョンアップされるクラウド会計への乗り換えを検討することをおすすめします。

領収書や会計ソフトについて会計担当者だけでなく社員全員の認知が必須

インボイス制度が開始すると、今までは手書きや口頭でのやり取りで済んでいた取引についても適格請求書が必要となります。

明確な理由のない仕入れについては仕入税額控除の対象とならない可能性もあるため、正しく記載された請求書を保管することが大前提となるのです。

帳簿に記載する立場にある会計担当者だけでなく、領収書を実際にやり取りする現場の社員全員にもインボイス制度についての理解と知識を持ってもらうよう事業主の皆さんは働きかけを進めていくようにしましょう。