【開発秘話】「完璧な全自動」を目指して挫折した税理士が、あえて「手入力」を残した理由。~MF資金繰り表ジェネレーター公開~
こんにちは、鹿児島の税理士兼、2園の保育園を運営する経営者、鯵坂(あじさか)です。
今日は、無料公開することになった「MF資金繰り表ジェネレーター」についてお話しします。
ただの「便利ツールの紹介」ではありません。
これは、完璧主義に陥ってド沼にハマり、そこから「ある真理」に気づいて生還した、一人のデジタル日曜大工職人の「やらかしとひらきなおりの記録」でもあります。
銀行提出用の資金繰り表作成に悩むすべての経営者と会計事務所職員、そして「システム化」という言葉に振り回されがちな実務家の皆さんに、この「ぶっちゃけ話」を捧げます。
序章:銀行からの無茶振り、そして決意
事の発端は、私自身の保育園経営における融資相談でした。
銀行の担当者さんから、いつものように爽やかな笑顔で言われるわけです。
「鯵坂先生、直近の試算表と、今後1年の資金繰り表をいただけますか? 明後日くらいまでに。融資したいので。」
「明後日!?融資したいのに!?お願いしてないけど!?(心の声)」
もちろん、試算表(PL/BS)はMFクラウド会計に入力しているので一瞬で出ます。問題は「資金繰り表」です。
会計ソフトから出る「キャッシュフロー計算書(間接法)」を渡しても、銀行員さんは苦笑い。「いやぁ、これじゃなくて、入と出がわかるいつものヤツで…」と。
わかっています。わかってるんです。彼らが欲しいのは「直接法」。稟議書にそのまんまくっつけれるやつ。
売上入金がいくら、経費支払いがいくら、借金返済がいくら。小学生のお小遣い帳レベルに単純化された、現金の動きそのものの表です。
しかし、これを会計データから作るのは至難の業。
「もう嫌だ。こんな単純作業に自分の人生を使いたくない」
そう思った私は、デジタル日曜大工職人魂に火をつけました。
「そうだ、ツールを作ろう。MFのデータを読み込んだら、何もせずとも完璧な資金繰り表が出てくる『神アプリ』を!」
泥沼編:目指してしまった「完全自動化」
開発当初、私はかなり意気込んでいました。
どうせ作るなら、ユーザーが(そして私が)一切キーボードを叩かなくていいものにしようと。
そこで私は、無謀にも「仕訳帳(全取引データ)」を読み込ませるというアプローチを取りました。
PLやBSといった「結果の数字」ではなく、何千行にも及ぶ「1件1件の取引データ」をすべて解析させようとしたのです。
そうすれば、「あ、これは銀行への返済だな」「これは新しい複合機のリース料だな」と、事前設定したロジックとAIの雰囲気解析ですべて自動で振り分けられるはずだと。
しかし、作り始めてすぐに気づきました。
これは、地獄への入り口だと。
AIでも解けないパズル
例えば、「借入金の返済」ひとつとっても、現実は複雑怪奇です。
- ・元金と利息が別々の行で切られている場合もあれば、合算されている場合もある。
- ・複数の銀行からの引き落としが同じ日に重なることもある。
- ・「設備投資」と「修繕費」の区別は、摘要欄の書き方次第で判定不能。というか入力担当者の気分次第。人によっては期中は仮払金にしてたりするし。
これをプログラムで自動判別させようとすると、無限に条件分岐を書かなければなりません。
「もし摘要に『ヘンサイ』とあったら…いや待て、『カ)』があったら…」
私とclaudeとgeminiとchatGPTは夜な夜なコードを書き続けました。
しかし、頑張れば頑張るほど、プログラムは複雑になり、エラーが増え、処理が重くなる。
そしてある深夜、画面に表示されたエラーメッセージを見つめながら、ふと我に返ったのです。
「……何したいんだっけ?」
解決編:悪魔的な「気づき」
冷静になって考えてみました。
資金繰り表を作る上で、「本当に計算が面倒くさい部分」と、「実は簡単な部分」があるんじゃないか?
面倒くさい部分(営業収支)
これは間違いなく「本業のお金の動き」です。
売上入金、仕入支払、人件費、諸経費…。
これらは取引件数が膨大で、かつ「発生(PL)」と「入金(Cash)」のタイミングがズレまくるため、人間が電卓で計算すると必ずミスをします。
こここそ、コンピューターがやるべき仕事です。
実は簡単な部分(財務収支・投資収支)
一方で、私が四苦八苦していた「借入金の返済」や「設備投資」はどうでしょうか。
「これ、通帳見れば一発じゃね?」
そうです。
毎月の返済元金なんて、返済予定表を見れば一目瞭然。
「今月、新しい車を買うかどうかの設備投資額」なんて、経営者の頭の中にしかありません。
「来月いくら借りるか」なんて、仕訳データにはまだ載っていません。
「そこだけ、Excelに出力した後で、人間が手入力すればよくね??」
この「悪魔的な気づき」が降りてきた瞬間、私の肩から憑き物が落ちました。
なぜ私は、たった数行の数字を入れるのをサボるために、何百行ものコードを書いていたのか。
「自動化」という言葉に酔って、手段と目的を履き違えていたのです。
完成した「不完全な」ジェネレーター
こうして方向転換して完成したのが、今回のツールです。
このツールは、あえて「財務収支」と「設備投資」の部分を空欄(または簡易的なBS差額)で出力します。
このツールの正しい使い方
- ステップ1:MFのデータを突っ込む
面倒な「売上入金」「経費支払」「人件費計算」など、計算が爆発しそうな9割の部分は、ツールが一瞬で(概算)計算してExcel化します。 - ステップ2:Excelを開いて「ちょろっと手入力」する
ここがポイントです。
出力されたExcelの「財務収支」の欄に、手元にある返済予定表を見ながら、元金返済額を入力してください。
「設備投資」の欄に、買った機械など固定資産の代金を入力してください。 - ステップ3:完成!
これで、銀行提出用の立派な資金繰り表が出来上がります。
「えー、手入力するの?」と思われるかもしれません。
しかし、断言します。これが一番早くて、一番正確です。
「手入力」が経営にもたらす意外な効果
実は、この「あえて手入力を残す」仕様には、思わぬ副産物がありました。
Excelのセルに、自分の手で「借入金返済:50万円」と打ち込む。
「設備投資:300万円」と打ち込む。
この作業を通じて、経営者は「お金の重み」を指先で感じることができるのです。
もし全自動だったら、出力された紙をなんとなく眺めて「ふーん、今月はキツイな」で終わっていたかもしれません。
しかし、自分で数字を打ち込むと、思考が動き出します。
「うわっ、毎月50万も返してるのか。じゃあ粗利であとこれくらい稼がないと資金ショートするな」
「300万の機械を買うなら、今のうちに融資の打診をしておかないとマズイな」
もっとも単純で重要な数字を「自分の手で入力する」こと。
これこそが、単なる事務作業を「経営判断」に変えるスイッチだったのです。
「デジタル」は「アナログ」を守るためにある
冒頭の私の哲学に戻ります。
「デジタル」は「アナログ(熱量)」を守るための手段である。
PLから資金の動きを逆算するような、複雑で面倒な計算(ロジック)はデジタルに任せましょう。
でも、将来の投資や、銀行への返済といった「経営の意思」が宿る数字は、アナログ(人力)で扱いましょう。
このツールは、その「一番おいしいところ」を人間に残すように設計されています。
(というのは後付けで、開発が大変すぎて諦めただけなんですが…)
でも結果として、「実務で一番使える、ちょうどいいツール」になったと自負しています。
ぜひ、未完成のパズルを楽しんでください
というわけで、この「MF資金繰り表ジェネレーター」は、90%までを爆速で作りますが、最後の10%はあなたの手入力を必要とします。
会計事務所の職員さんは、お客様の返済予定表を片手に、パパッと入力して仕上げてください。読み込ませるCSVは税込経理じゃ無いとダメじゃね!?と気づいたあなた。すばらしい!(でも気にしなくてOK)
経営者の皆さんは、これからの投資計画を思い浮かべながら、希望の数字を打ち込んでください。
そのひと手間が、無機質なExcelの表に「経営の魂」を吹き込みます。
「完璧な自動化」を夢見て挫折した税理士がたどり着いた、「人間とAIのちょうどいい関係」。
ぜひ、体験してみてください。